まず、「予防拘禁」に関しての違法性。
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http://www.kansatuhou.net/02_mondai/09_utida.html

法律家の立場から

あらためて予防拘禁法を問う

内田博文(九州大学法学部教授:刑法)
2006年11月


I .「精神障害者」隔離収容政策

日本の「精神障害者」の総数は220万人ないし217万人と推定されています。入院患者の総数はおよそ33万人ないし34万人。任意入院患者も含む 全ての入院患者の半数を超える17万人ないし18万人の患者は24時間出入口を施錠された閉鎖病棟に隔離されているといわれています。また、入院隔離の期 間は全体の半数近くの15万人が5年以上の長期に至っています。これに対し、1年間に懲役あるいは禁固刑の有罪判決を受ける人はおよそ4万6千人。このう ち実刑判決を受けて実際に刑事施設に収容される人はわずか2万人にとどまります。しかも、収容される期間が5年間を超える人は2万人のうちの6%ないし 7.5%の1200人から1500人に過ぎません。これは「精神障害者」の施設隔離の実に100分の1です。
 精神医療は、一般医療とは質の異なる特別に低劣な医療と格付けされ、「医療なき隔離収容」と酷評され続けてきました。そこで、2002(平成14)年 12月13日、公衆衛生審議会意見書は、精神医療施策の改善方策を指摘し、特に精神医療スタッフの増員、充実を求めました。一般医療の3分の1ないし2分 の1のスタッフを定めた国の基準でさえをも下回り続けている施設が3割に及んでいると指摘し、改善方策を求めたのが、この意見書でした。意見書は、総合病 院や大学病院の精神病棟においては、少なくとも新たな医療法上の一般病床と同じ人員配置の水準を確保すべきだとしました。このような低劣な精神医療の下 で、 国公立の施設をも含めて、目を覆うべき患者虐待が繰り返されてきたことも看過しえません。
 精神保健福祉法では、「精神障害のために自身を傷つけ又は他人に害を及ぼすおそれ」及び「おそれの解消」というのが措置入院及び同入院解除の要件とされ ています。しかし、この要件を科学的に判定することは不可能です。そのための科学的な研究が日本で行われたことを聞いたことがありません。恣意的に運用さ れざるをえません。このような「自傷他害行為」で隔離できるのは「精神障害者」だけです。これらによれば、「治療のため」とか「再犯防止のため」とかいう のは名目でしかないことが明らかでしょう。それでは、隔離の実質的な理由は何でしょうか。「精神障害者」は、その障害ゆえに、他の人たちに比べて重大な他 害を繰り返す、つまりは危険だということが「精神障害者」隔離政策の隠された実質的な理由ですが、この前提は正しいのでしょうか。
 犯罪白書によりますと、「精神障害者」の犯罪率は、一般の3分の1ないし4分の1の低率で推移しています。その再犯率も一般の2分の1の低率です。「精 神障害者」の犯罪率、再犯率が高いとする証拠はありません。多くの証拠はむしろ少ないことを示しています。もっとも、重大な犯罪では発生率は高いという見 方があるかもしれません。しかし、重大な犯罪(他害)はそもそもその事件総数が少なく、統計的処理に馴染むものではありません。また、この数値は、「精神 障害者等」にかかるものでして、「精神障害者」に限定すれば、その半分以下となります。重大な犯罪(他害)においてであっても、「精神障害者」の犯罪率が 高率だとする見解が公式に認定されたという話は聞いたことがありません。
 「精神障害者」に対する差別・偏見の壁の厚さについては改めて詳述するまでもありません。この差別・偏見のために必要な精神医療の受診を断念している人 たちも少なくありません。この差別・偏見で重要なことは、それは国の誤った「精神障害者」隔離政策が引き起こした差別・偏見だという点です。
 国は、「精神障害者」隔離政策を根拠づけるために、「世論」「民意」をしばしば持ち出します。しかし、誤った社会認識の上に立った「世論」「民意」に正 当性はありません。国連規約人権委員会は、日本政府から提出された第4回報告を詳細に検討した結果を「人権委員会の最終意見」としてまとめました。最終意 見のうち、「肯定的要素」がパラグラフの第3から第5までのわずか3項目なのに対して、「主な懸念事項及び勧告」 が29項目に及んでいる点がまず目につきます。人権制限を合理化すると日本政府があげている理由、「世論」、「公共の福祉」、「合理的な差別」という理由 についても、「懸念」が表明されています。
 人権、なかでもマイノリティーの人権を「世論」「民意」を理由として制限することが許されないことは、国連の指摘を待つまでもありません。周知のよう に、2001(平成13)年5月11日、熊本地裁は、「らい予防法」の強制隔離規定は遅くとも1960(昭和35)年には違憲性が明白になっていたとの画 期的な判決を下しました。この判決は、多数決原理についても触れ、「新法(=らい予防法)の隔離規定は、少数者であるハンセン病患者の犠牲の下に、多数者 である一般国民の利益を擁護しようとするものであり、その適否を多数決原理にゆだねることには、もともと少数者の人権保障を脅かしかねない危険性が内在さ れている」(解放出版社編『ハンセン病国賠訴訟判決』284頁以下)と批判しました。
 誤った社会認識は是正されなければなりません。是正する責任が国にはあります。国の誤った政策によって作出された差別・偏見の場合はなおさらです。国が「世論」「民意」に追随することは許されません。
 2002(平成14)年3月8日、世界保健機構(WHO)は、「日本の精神病床が人口比でも絶対数でも世界最大」と指摘し、日本政府に対して「病院収容から地域医療への転換を緊急に進める」ことを内容とする勧告をまとめました。

 

II.憲法判断

患者に対して隔離医療を許容する法律が憲法に合致するかどうかを判断した判例はひとつしかありません。前述の熊本地裁判決がそれです。地裁判決は、 日本国憲法の下で患者隔離を実施するに当たっては最大限の慎重さをもって臨むべきである(解放出版社編『ハンセン病国賠訴訟判決』267頁)と判示しまし た。そして、隔離による人権制限というのは単に居住移転の自由の制限ということでは評価し尽くせない。より広く、憲法13条に根拠を有する人格権そのもの に対するものととらえるのが相当である(同書282頁)と判示しました。問題は、「らい予防法」の患者隔離規定による「人としての社会生活全般にわたる」 人権制限の合理性についてですが、熊本地裁判決は、こう判示しました。「隔離規定は、新法(=らい予防法)制定当時から既にハンセン病予防上の必要を超え て過度な人権の制限を課すものであり、公共の福祉による合理的な制限を逸脱していた」(同書286頁)と。
 それでは、この地裁判決が採用した考え方に照らしますと、日本の「精神障害者」隔離政策は合憲でしょうか。それとも違憲でしょうか。日本の「精神障害 者」隔離政策が、「隔離の必要性」を充たしていないことは改めて詳述するまでもないでしょう。「精神障害者」の人権制限も、「人としての社会生活全般にわ たるもの」ということになりましょう。とすれば、「人としての社会生活全般にわたる」人権制限を強いる精神保健福祉法や医療観察法の患者隔離規定もまた、 合理的な人権制限の範囲を逸脱したものだということになりましょう。このように熊本地裁判決の採用した考えに照らしますと、日本の誤ったハンセン病隔離政 策と同様、「精神障害者」隔離政策も違憲の疑いが強いということになります。

 

III.「触法精神障害者医療観察法」の制定(2003年7月)

池田小学校園児殺害事件を契機として、2003年7月16日、心神喪失者等医療観察法が制定されました。医療観察法は、精神保健福祉法ではまかなえない場合があるとして、新たな患者隔離規定を設けました。
 この法律は、表面的には、「精神障害の改善」及び「社会復帰の促進」を謳っています。しかし、「病状の改善」及び「社会復帰の促進」という目標に適う政 策は、施設収容による患者隔離ではありません。WHOが勧告するように、地域医療化です。一般医療よりも質の低い医療、看護、福祉ではなく、少なくとも一 般医療並みの質の確保であり、できれば専門性をもった高質の医療、看護、福祉の実現です。33万人から34万人もの患者を施設収容し、社会から隔離してい る現状で、新たに患者の隔離規定を設けることが「精神障害者」の「病状の改善」及び「社会復帰の促進」にふさわしい効果が見込めるとは到底考えられませ ん。にもかかわらず、医療観察法は、WHOの勧告を無視する形で、「精神障害の改善」及び「社会復帰の促進」の名の下に、新たな患者隔離規定を設けまし た。「精神障害の改善」及び「社会復帰の促進」は名目にしかすぎず、触法行為の再発を防止するための強制入院等の確保が目的であることは明らかです。刑法 第39条第1項の規定により処罰することが許されないはずの人のうち、「再犯のおそれ」が認められる「精神障害者」については、国は、期限なしで閉鎖病棟 に隔離収容し、治療を強制することを認めるものです。新たに患者の自由を奪い、人生に対して重大な制限を与えることになります。
 しかし、前述しましたように、重大な犯罪(他害)においてであっても、「精神障害者」の犯罪率が高率だとする見解が公式に認定されたという話は聞いたこ とがありません。かりに、「再犯のおそれ」が認められても、「精神障害者」でなければ、何らの強制処分を受けることはありません。強制処分を課すことは憲 法に抵触するおそれが強いからです。では、なぜ、「精神障害者」だけが許されるのでしょうか。憲法に抵触しないのでしょうか。合理的な根拠は示されていま せん。「精神障害者は危険だ」という誤った認識がここでも前提となっていますが、それだけではありません。新たな患者隔離規定の新設が、今ある「精神障害 者」は危険だとする、誤った社会認識をより強化することは必定だからです。今ある差別・偏見が新たな患者隔離規定を求め、新設された患者隔離規定が更なる 差別・偏見を結果するという悪循環が見られます。
 医療観察法が、従前の国の誤った「精神障害者」隔離政策を是正するものではなく、さらに強化するものであることは明らかでしょう。
 医療観察法による医療の強制は、「入院による医療」の強制と、「入院によらない医療」の強制とからなります。強制入院の期間は特に定められていません。 指定医療機関の管理者は、入院の継続が必要であると認める場合は、入院の決定があった日から起算して6月が経過する日までに、地方裁判所に対し、入院継続 の確認の申立てをしなければならないと規定されている(法第49条第2項)だけです。
 指定入院医療機関における「入院によらない医療」の強制は、精神保健福祉法にはない強制処置です。通院期間は3年とされていますが、裁判所は、通じて2年を超えない範囲で当該期間を延長することができるとされています(法第44条)。
 「入院による医療」及び「入院によらない医療」はともに、「対象行為を行った際の精神状態を改善し、これに伴って同種の行為を行うことなく、社会に復帰 することを促進するため」が医療強制の要件とされています。精神保健福祉法の措置入院の要件である「自傷他害のおそれ」よりも要件を絞っているようにも見 えます。しかし、アメリカの研究者は、少し古いのですが、1988(昭和63)年の研究報告において、「精神障害者」の再犯予測に関する鑑定は偶然値の域 を越え得ない不確実なものと結論づけました。その後、この結論を覆す研究報告の存在が公式に確認されたことはありません。日本でもこのような研究は見当た りません。これでは、「再犯の恐れ」があるか否かは、不確実な判断とならざるを得ません。かりに「対象行為を行った際の精神状態が改善されていない」こと をもって「再犯の恐れ」があると認定されれば、この「再犯の恐れ」という要件はないに等しいということになります。
 社会防衛の要請が、「措置入院」の場合以上に働く可能性は強く、その要請が「医療」強制の期間にも影響を及ぼすものと予想されます。医療観察法の運用を実質的にコントロールするのは社会防衛の役割を担う検察官だといってよいでしょう。
 強制の範囲は、精神保健福祉法よりも拡大され、「入院によらない医療」が新たに規定されたことは前述しましたが、この「入院によらない医療」を強制する ために、「入院によらない医療」を行う期間中、当該患者は精神保健観察に付することとされました。受刑者にも見られない人権の制限です。「再犯の防止」と いった不確実な要件でこのような制限が認められるかは、はなはだ疑問です。裁判所の決定により「入院によらない医療」を受けることを義務付けられた者が、 この義務に反したときは、保護観察所の長は、地方裁判所に対し、入院の申立てをしなければならないとされています(法第59条)。
 医療観察法は、裁判所は、対象者に対し、呼出状を発することができ、対象者が正当な理由がなく呼出しに応じないときは、当該対象者に対し、同行状を発す ることができるなど(法第26条)と規定しています。また、裁判所は、厚生労働省の職員に「入院による医療」の決定を執行させ、「入院による医療」の決定 を執行するために必要があると認めるときは、呼出状を発することができ、対象者が正当な理由がなく呼出しに応じないときは、当該対象者に対し、同行状を発 することができるなど(法第45条)と規定しています。同行状又は「入院による医療」の決定を執行するために必要があるときは、裁判所又は当該執行を嘱託 された者は、警察官の援助を求めるができるなどとされています。また、裁判所は、対象者の行方が不明になったときは、所轄の警察署長にその所在の調査を求 めることができ、警察官は、所在の調査を求められた対象者を発見した場合においては、当該対象者に対し同行状が発せられているときは、同行状が執行される までの間、24時間を限り、当該対象者を警察署等に保護することができる(法第75条)とされています。
 「犯罪被害者」対策という色彩が強いことも医療観察法の特徴です。検察官からの申立てを受けた地方裁判所は、決定の審判について、当該対象行為の被害者 等から申出があるときは、その申出をした者に対し、審判を傍聴することを許すことができるとされ、裁判所は、決定をした場合は、当該対象行為の被害者等か ら申出があるときは、その申出をした者に対し、「対象者の氏名および住居」、「決定の年月日、主文及び理由の要旨」を通知するなど(法第47条及び第48 条)とされています。
 「精神障害者」隔離の更なる強化を、「適正手続」の整備によって正当化しようというのも医療観察法の特徴です。精神保健福祉法では、措置入院は、2人上 の指定医の一致した判定にもとづき、都道府県知事が行うことができるとされています。そして、患者からの措置入院の解除の請求については精神医療審査会が これを審査することとされています。医療観察法では、「医療」の強制の決定は地方裁判所が行うこと(法第42条)とされています。地方裁判所といっても、 その実質は「一人の裁判官及び一人の精神保健審判員の合議体」(法第11条)です。問題は、法律家と精神科医の協働がどちらの方向に向かっているかです。 隔離強化の方向に向かっているといわざるを得ません。司法の役割から見た場合、このような関与の仕方はいかがなものでしょうか。疑問を禁じえません。
 入院等の決定等の申立てをした検察官、指定医療機関の管理者又は保護観察所の長は、裁判所の審判において、意見を述べ、資料を提出することができます (法第25条)。対象者及び保護者は弁護士を付添人に選任することができます。裁判所は、必要があると認めるときは、職権で、弁護士である付添人を付する ことができます。この必要的付添人制度は抗告審においても導入されています(法第30条及び第67条)。
裁判所の決定に対し、検察官、指定医療機関の管理者、保護観察所の長は、法令の違反、重大な事実の誤認又は処分の著しい不当を理由とする場合に限り、2週 間以内に高等裁判所に抗告をすることができます。対象者、保護者又は付添人も、同様の抗告をすることができますが、付添人は、選任者である保護者の明示し た意思に反して抗告をすることはできません(法第64条)。抗告裁判所の決定に対し、検察官、指定医療機関の管理者、保護観察所の長、対象者、保護者、付 添人は、憲法に違反し、若しくは憲法の解釈に誤りがあること、又は最高裁判所若しくは高等裁判所の判例と相反する判断してことを理由とする場合に限り、2 週間以内に最高裁判所に再抗告をすることができます(法第70条)。
 医療観察法では、保護観察所は、精神保健観察の実施の外、社会復帰の促進を図るための退院後の生活環境の調整に関すること、関係機関相互間の連携の確保に関することなどを行う(法第19条)とされ、重要な役割が付与されています。
 医療観察法では、このように詳細な手続規定が置かれています。しかし、実質的に見まして、憲法の要求する「適正手続」の担保となりそうなのは必要的付添 人制度だけだといっても過言ではありません。問題は、社会防衛の役割を担い、医療観察法の運用を実質的にコントロールする検察官に対して、付添人弁護士 が、対象者の人権擁護の役割を適切に果たしえるかという点です。否といわざるを得ません。付添人の活動も現実には大きな壁に直面せざるをえないからです。 前述しましたように、「医療」強制の要件が曖昧で、不確実な判定にならざるを得ないという点がその一つです。このような要件の下では、付添人の努力が結果 に結びつかない可能性は高いといえます。壁の第2は「被害者の傍聴」等で、付添人活動の大きな制約になると思われます。
 精神保健福祉法による医療強制と医療観察法による医療強制とが重層的に作用する結果、隔離期間がより長期化する可能性があります。立法者は、医療観察法 の規定する「入院による医療」が必要でないと判断された者に対しても、精神保健福祉法による措置入院が行われる場合があることを想定しているといえましょ う。 精神保健福祉法による措置入院を解除された者に対し、医療観察法による「入院によらない医療」の決定がなされる可能性もあります。問題は、「入院によらな い医療」の強制と措置入院とが競合した場合、どのように処理するかですが、法の規定はありません。措置入院を続けながら「入院によらない医療」を受けると いうのはあまり考えられませんが、措置入院が解除された場合は、「入院によらない医療」が実施されることになりましょう。

 

IV.医療観察法の運用

法の施行から2006(平成18)年7月14日までの1年間になされた裁判所への申立ての件数は344件です。対象者の内訳は、不起訴となった者が 89%の305件、確定裁判に基づく者が11%の39件です。確定裁判を受けた者の中には、心神耗弱と認められ、刑が減軽されて保護観察付執行猶予判決を 言い渡された者も含まれています。対象行為の種類は、傷害が134件、殺人が89件、放火が86件、強制わいせつ・強姦が27件、強盗が19件です。 344件のうち地方裁判所で審判結果が出されたものは268件で、その内訳は、「入院による医療」の決定が147件、「入院によらない医療」の決定が69 件、不処遇の決定が43件、申立てを棄却する決定が9件となっています。「入院による医療」の決定が54.9%で、措置入院の認容率と比べて低いといえな いこともありませんが、「入院によらない医療」の強制が認められていることの影響だともいえます。「入院による医療」と「入院によらない医療」の強制をあ わせると90%を超えています。
 指定入院医療機関に入院し、退院許可決定を受けた人と、審判において通院決定を受けた人は、保護観察所による精神保健観察を受けますが、2006(平成 18)年7月における精神保健観察の対象者は77人で、そのうち退院許可決定にもとづく精神保健観察の対象者は8名です。
 指定入院医療機関は、一般の精神科病院と比べ、医師やスタッフの配置が充実し、手厚い専門的な医療を提供することが可能になっているとされますが、その 整備は、2006(平成18)年8月現在では、全国で国立の8施設、計175病床だけです。国はさらに国立8施設、公立2施設の建設を進めていますが、国 の計画は完全に頓挫した形です。すべての都道府県において指定入院医療機関を整備するという目標からみると、ほど遠い状況にあります。
 病棟建設の遅れは、対象者の処遇にも影を落としています。家族や知人から離れた遠隔地での入院が対象者の治療や社会復帰にマイナスになることは国も認め ていますが、現状は、指定入院医療施設が少ないために、居住地から離れた遠距離の施設に入院することが少なくないからです。対象者の社会復帰を支援するた めに、各地の保護観察所に配属された社会復帰調整官の仕事にも支障が出てきています。
 全国53の保護観察所に配属された調整官は2006(平成18)年8月現在、63人です。大都市を除き、1ヶ所に1人しか配属されていません。現場から は、「緊急事態を考えれば、1ヶ所に2名ずつは配属してほしい」との声が出ていますが、今年10月に7名増員される程度です。
 指定通院医療機関の整備は、2006(平成18)年8月現在では、全国で244ヶ所の病院が指定を受けています。指定入院医療機関の整備状況よりはまだましですが、国によりますと目標の6割強にとどまっているとされます。
 新聞報道によりますと、福岡県の50代の男性は昨年8月、木造のお堂に灯油をかけ、ライターで火をつけようとして通行人に見つかり、放火未遂容疑で逮捕 されました。捜査段階の精神鑑定で「心神喪失状態」と診断されたために、検察側が9月、不起訴としたうえで、福岡地裁に対し、医療観察法による審判を申し 立てました。福岡地裁は、昨年12月、放火未遂だと判断した上で、入院を命じました。男性は、入院決定を不服として抗告しましたが、抗告審の福岡高裁は、 今年の3月、「実際に着火した危険性は薄く、行為は放火予備罪にしかならない」と、男性側の主張を認めて、地裁決定を取り消したということです。検察も再 抗告はせず、取消し決定が確定しました。最高裁によりますと、医療観察法の施行後、入院決定が取り消されたのは初めてだということです。必要的付添人制度 の成果だともいえますが、問題は、入院要件の判断において、努力が実を結ぶかどうかです。
 男性は、入院決定後、名古屋市の国立病院機構東尾張病院に3ヵ月半、入院していました。男性には身寄りがなく、入院決定の取消し後も、一人で地元に帰れ る状態ではなかったために、同病院の職員は引率して福岡に戻りました。職員を含む移動費用は男性の生活保護費を取り崩したということです。刑事裁判で無罪 になれば、刑事補償法による補償があるのに、医療観察法では入院決定が取り消されると、何の支えもいないままに病院から出され、地元に戻る費用も自分で負 担しなければならないという問題も明らかとなりました。
 1974(昭和49)年5月、法制審議会は「刑法改正草案」を法務大臣に答申しました。草案には、公務員の機密漏示罪や企業秘密漏示罪の新設、あるいは 不定期刑の導入等、多くの問題がありました。なかでも、保安処分の新設は最大の争点のひとつとなりました。刑法学会の会員の多くは、当初は保安処分に賛成 でしたが、精神医学の方たちからの問題点の指摘を受けて、反対に回る人が続出しました。日弁連や各界も反対した結果、国は草案を国家に上程することができ ませんでした。保安処分の新設という国の悲願はその後も挫折し続けました。これに突破口を開けたのが医療観察法でした。国会に上程された原案に対しては再 び保安処分ではないかという批判が強かったことから、国は、保安処分ではないことを装うために、「精神障害の改善」及び「社会復帰の促進」という目的を前 面に掲げるという修正に出ました。この修正案は国会を通過し、可決成立しました。
 しかし、医療観察法は、その制度設計からして、「精神障害者」を対象とした予防拘禁法という性格をもつものでした。「精神障害者」隔離の更なる強化を 「適正手続」の整備によって正当化しようというものでした。加えて、前述しましたように、「精神障害の改善」及び「社会復帰の促進」の担い手である指定医 療機関の整備は大幅に遅れており、整備計画も頓挫しています。社会復帰に重要な役割を担う社会復帰調整官の数も圧倒的に足りません。国の誤った「精神障害 者」隔離政策によって醸成された日本の貧しい精神医療と「精神障害者」差別の影響が、ここでも見られます。このような中で、精神医療の限られた資源を医療 観察法の方に重点的にまわしますと、ただでさえ手薄な精神保健福祉法の方がより手薄にならないかという懸念は決して杞憂ではありません。このような状況 は、医療観察法をいよいよ予防拘禁法に追いやるという結果を招いています。

 

V.おわりに

法務大臣は、今年の7月26日、法制審議会に対し、「満期釈放者の再犯率が高い傾向にかんがみますと、有効な中間処遇制度の在り方などについても御 検討いただきたいと考えておりますし、刑を受け終わった者に対する再犯防止・社会復帰支援制度についても御意見を承りたいと考えております。」というよう に諮問しました。性犯罪者や薬物犯罪の再犯の恐れがある満期釈放者を対象に、刑終了後も、専門病院へ入所させる制度などの導入について諮問したものと受け とめられています。医療観察法が参考になっていることは明らかでしょう。保安処分ではないかという批判をかわすために、「精神障害の改善」及び「社会復帰 の促進」を表門に掲げながら、裏門から「保安処分」を招きいれることによって、「医療政策」の実質を「治安政策」に置き換えるという方法がそれです。刑法 の論理では正当化し得ない身柄拘束を、医療の論理を装って強行しようとするものです。これを許すことは医療の堕落を意味します。
 国益に奉仕する医療の起源は古くは明治時代に遡りますが、戦後も一向に改められないというところに日本の特徴があります。国の誤ったハンセン病隔離政策 はようやく断罪されました。しかし、それに勝るとも劣らない「精神障害者」隔離政策は21世紀に入っても改められるどころか強化されようとしています。
 今、私たちに求められているのはどういうことでしょうか。今ある差別・偏見が新たな患者隔離規定を求め、新設された患者隔離規定が更なる差別・偏見を結 果するという悪循環を一刻も早く断ち切らなければなりません。日本国憲法第13条は、すべての国民に幸福追求権を保障しています。しかし、「精神障害者」 及びその家族の置かれた現実は、それとはほど遠い状況にあります。精神障害者及びその家族を「市民」から排除するのではなく、「市民」に包摂することが 今、私たちに求められています。


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ストーカー加害者対策で報告書 - NHK 首都圏 NEWS WEB  次にカウンセラーが潰されるんですよ。殺害予告されたりしてね。こんなこと考えちゃいけないのですが、ストーカーに関しては予防拘禁もありか、と思うときもあります。


「貴方が地獄へ堕ちますように、貴方が地獄へ堕ちますように」

「革共同が狙っていますから、気をつけてください」

「まあいっても貴方はすぐ裏切る人だから、頼みになりませんね」

「警察も警察官が殺人するところですから」

「南無阿弥陀仏」